異業種へ飛び出す司書たち

データ分析の源泉を拓く:元司書が高度な企業リサーチで活躍する情報専門家

Tags: 企業リサーチ, 情報専門家, 情報探索, データ活用, キャリアチェンジ

元司書が企業のリサーチ部門へ

図書館司書は、情報の専門家として、利用者が必要とする情報を見つけ出し、提供することを使命としています。その過程で培われる高度な情報探索能力、多様な情報源を評価する能力、そして複雑な情報を体系的に整理する能力は、実は図書館以外の多様な分野、特に情報技術やデータ活用が重要視される現代社会において、非常に高い価値を持っています。

ここでは、大学図書館で情報探索支援に携わった経験を持つ元司書が、異業種の企業で「情報専門家」として活躍している事例をご紹介します。彼女は現在、大手製造業の研究開発部門にあるリサーチチームで、世界中の技術動向や市場情報を収集・分析し、研究開発の方向性決定を支援する業務を担っています。

図書館を離れたきっかけは、自身が持つ情報スキルが、より直接的にビジネスの意思決定に貢献できる場に関心を持ったことでした。特に、日々生み出される膨大な情報をいかに活用するかが企業の競争力の源泉となる現代において、自身の情報専門性が役立つと考えたのです。

現在の業務内容:情報の海から価値ある情報を引き出す

彼女の現在の主な業務は多岐にわたります。具体的には、以下の内容が含まれます。

これらの業務は、高度な情報技術や分析ツールを駆使することも多く、情報科学やデータサイエンスの知識を持つ読者にとっても、自身のスキルがどのように活かせるか具体的なイメージが湧きやすい分野と言えるでしょう。

司書経験が現在のキャリアで活かされている点

彼女が企業のリサーチ業務で特に強みとしているのは、まさに司書として培った専門性です。

  1. 高度な情報探索能力: 図書館で様々なレファレンス事例に対応する中で培った、多様な情報源を横断的に検索し、高度な検索テクニック(ブール演算子、近接演算子、ワイルドカード、フィールド指定など)を駆使する能力は、ビジネス分野の専門データベースやWeb検索において強力な武器となります。「〇〇という技術に関する特許情報と、関連市場の規模データ、さらに主要プレイヤーの動向を知りたい」といった複雑なリクエストに対し、最短ルートで網羅的かつ高精度な情報を引き出すことができます。
  2. 情報源の厳密な評価: 学術論文やWebサイトの信頼性を評価する司書の情報リテラシー教育で扱う知見は、ビジネス情報の真偽を見極める上で非常に重要です。特に、インターネット上には不確かな情報が溢れており、情報の信頼性を評価するスキルが、分析の前提となるデータの質を保証します。
  3. 利用者ニーズの本質理解: レファレンスインタビューで利用者の背景や真の目的を掘り下げるスキルは、社内からの情報リクエストに対し、単にキーワードで検索するのではなく、「なぜこの情報が必要なのか」「この情報をどう活用するのか」といった背景を理解し、期待を超える価値のある情報を提供する上で不可欠です。
  4. 情報の体系的な整理と構造化: 図書館資料を分類し、メタデータを付与して管理する経験は、企業内に散在する膨大なデジタル情報を整理し、後から活用しやすいように構造化する際にそのまま応用できます。収集した調査レポートやデータを分類・タグ付けし、データベースや共有システムに登録する業務は、まさに司書の情報組織化スキルが活かされる場面です。これは、データベース設計や情報アーキテクチャといった情報科学の領域とも深く関連しています。
  5. 情報倫理と著作権の知識: 司書として当然に備えている情報倫理や著作権に関する知識は、収集した情報を適切に利用・共有する上で非常に重要です。特に企業では、法務やコンプライアンスの観点から、情報の取り扱いには細心の注意が求められます。

キャリアチェンジで直面した課題と学び

異業種へのキャリアチェンジは、順風満帆なことばかりではありませんでした。図書館とは異なるビジネスのスピード感、業界固有の専門知識の習得、そして情報技術の進化への継続的なキャッチアップは大きな課題でした。

特に、司書として培った情報スキルを、企業のビジネス目標達成にいかに貢献できるか、ビジネスの言葉で説明することには当初戸惑いがあったと言います。図書館では当たり前だった「情報の価値」を、企業の論理で語り直す必要がありました。

この課題を乗り越えるために、彼女は積極的に社内外の勉強会に参加し、業界知識や新しい分析ツールに関する情報を吸収しました。また、自身の情報スキルが具体的にどのような成果に繋がったのかをデータで示すなど、積極的に自身の貢献度を可視化する努力を行いました。

現在の仕事の魅力と今後の展望

現在の仕事の最大の魅力は、自身が収集・分析した情報が、会社の重要な意思決定や新しい技術開発に直接貢献できる点にあると言います。情報の専門家として、研究者や経営層といった様々なバックグラウンドを持つ人々と協働し、組織全体の情報活用能力を高める一助となれることに大きなやりがいを感じています。

今後の展望としては、よりデータ分析の領域に踏み込み、収集した情報から統計的な手法や機械学習を活用して新たな知見を引き出すことに関心を持っています。また、社内の情報基盤構築において、情報アーキテクチャやデータマネジメントの専門知識を活かし、全社的な情報共有・活用体制を強化することにも貢献したいと考えています。

読者へのメッセージ

司書として培った情報スキルは、図書館という枠を超えて、情報技術やデータ活用が求められる多くの分野で間違いなく通用する価値あるものです。情報科学を学んでいる方々であれば、データベース、情報検索、データ分析といった知識と、司書の情報整理・探索・利用者理解のスキルを組み合わせることで、異業種で非常にユニークかつ強力な専門性を発揮できる可能性があります。

自身のスキルがどのような分野で活かせるか悩んでいるのであれば、まずは自身の強み(情報の収集、整理、分析、伝える力、倫理観など)を具体的に棚卸ししてみてください。そして、異業種で「情報」がどのように扱われているのか、関連する求人情報や業界のトレンドなどを調べてみることをお勧めします。あなたの情報専門家としての経験は、多くの可能性を秘めているはずです。

まとめ

元司書が企業のリサーチ部門で情報専門家として活躍する事例は、司書スキルが情報技術やデータ活用の最前線でいかに価値を発揮できるかを示す好例です。情報探索、情報源評価、情報整理、利用者ニーズ理解といった司書経験で培われる核となるスキルは、異業種のビジネス現場においても、情報過多な時代を生き抜くための重要な鍵となります。自身の情報専門性を信じ、新たな分野で挑戦する元司書たちの姿は、キャリアの多様な可能性を示唆しています。