司書の情報収集・分析スキルが活きる:元司書がビジネスにおける競合情報分析で貢献する道
元司書というキャリアパスから、ビジネスの最前線であるコンサルティングや事業会社の企画部門で活躍する人々が増えています。図書館で培われる専門的なスキルは、異業種でも非常に高い価値を持ち得るからです。今回は、図書館を離れ、企業の競合情報分析や市場トレンド調査といった分野で活躍する元司書のストーリーを通じて、その可能性を探ります。
図書館からビジネスの世界へ
大学院で情報学を専攻し、卒業後は公共図書館で司書として勤務していた佐藤さん(仮名)。資料の選書、蔵書管理、レファレンス業務、情報リテラシー講座の企画・実施など、多岐にわたる業務に携わりました。特にレファレンス業務では、利用者の漠然とした疑問やニーズを掘り下げ、多様な情報源から信頼性の高い情報を収集・分析し、分かりやすく提供することにやりがいを感じていました。
司書という仕事を通じて、情報が人々の意思決定や成長に不可欠であることを強く実感しましたが、同時に、よりビジネスライクな環境で、情報の力を直接的に企業の成長や戦略立案に貢献したいという思いが芽生えました。特に、大量の情報が溢れる現代において、必要な情報を見つけ出し、整理し、分析して価値ある洞察を引き出すスキルは、図書館以外の分野でも応用できるのではないかと考えるようになりました。
ビジネスにおける競合情報分析の現場で
佐藤さんは現在、大手企業の事業企画部門で、リサーチアナリストとして勤務しています。主な業務は、自社を取り巻く競合企業の動向、市場の最新トレンド、顧客ニーズの変化などを継続的に調査し、その結果を経営層や各部署に報告することです。具体的には、公開されている競合企業のIR情報、プレスリリース、Webサイト、業界レポート、ニュース記事、SNS、展示会情報など、多様な情報源からデータを収集します。
収集したデータは、競合企業の戦略、新製品・サービス、価格動向、マーケティング活動、技術開発状況などを分析するために、特定のフレームワークやデータベースに入力し、整理・構造化します。そして、これらの情報を基に、市場シェアの変化予測、新たなビジネス機会の特定、リスク要因の洗い出しなどを行い、レポートやプレゼンテーション資料としてまとめ、関係者に共有します。
司書経験が活きるポイント
佐藤さんの業務において、司書時代に培ったスキルや経験が非常に役立っていると語ります。
1. 高度な情報検索・評価スキル
図書館で多様なデータベースや情報源を扱った経験は、ビジネス情報源の特性(信頼性、網羅性、更新頻度など)を理解し、効率的かつ網羅的に情報を検索する能力に直結しています。大量の情報の中から、目的に合った、かつ信頼できる情報を選び出すスキルは、フェイクニュースなども混在する現代において、ビジネスの意思決定において不可欠です。
2. 非構造化情報の整理・構造化
ニュース記事やWebサイトといった非構造化データから、必要な情報(企業名、製品名、日付、金額、戦略内容など)を抽出し、分析しやすいように構造化する作業は、図書館での資料分類や目録作成、メタデータ付与のスキルが基盤となっています。情報を特定のルールに基づいて整理し、後から検索・利用しやすい形にする能力は、ビジネスデータ管理においても非常に重要です。
3. 利用者ニーズを理解し、的確な情報を提供する能力
レファレンス業務で鍛えられた、質問の背景にある真のニーズを汲み取り、最適な情報を提供するスキルは、社内の依頼者(営業、マーケティング、企画など)が本当に必要としている情報を理解し、期待を超える分析結果を提供する上で役立ちます。「単に情報を集めるだけでなく、その情報が相手にとってどういう意味を持つのか」を常に考える姿勢は、司書ならではの強みと言えます。
4. データベース利用と情報システムへの理解
図書館システムや外部データベースの利用経験は、ビジネスで利用される様々なデータベース(顧客管理システム、営業支援システム、外部リサーチデータベースなど)への適応を容易にします。データの構造を理解し、必要な情報を抽出するためのクエリ(データベースへの問い合わせ)作成などにも抵抗なく取り組めます。
5. 情報倫理・著作権に関する知識
公開されている情報とはいえ、その利用には情報源の明示や著作権への配慮が必要です。図書館で培った著作権法や情報倫理に関する知識は、社内レポートや外部発表資料作成において、情報利用のルールを遵守する上で不可欠な基盤となります。
キャリアチェンジで直面した課題と学び
異業種へのキャリアチェンジで直面した課題として、佐藤さんはまずビジネス特有の専門用語や文化への適応を挙げます。司書の世界とは異なるスピード感や、より直接的に「成果」を求められる環境も、最初のうちは戸惑いがありました。
また、自身の司書経験で培ったスキルを、ビジネスサイドの同僚や上司にどのように説明し、価値を理解してもらうかという点も課題でした。「分類スキル」を「非構造化データの構造化スキル」、「レファレンススキル」を「利用者ニーズ理解に基づく情報提供・分析スキル」のように、「ビジネス言語」に翻訳して伝える努力が必要だったと言います。
これらの課題を乗り越えるために、積極的に社内研修に参加したり、業界関連の書籍や記事を読んだりして、ビジネス知識の習得に努めました。また、プログラミングの基礎やデータ分析ツール(Excel、BIツールなど)の使い方も独学で習得しました。司書時代に情報科学を専攻していた経験も、これらの新しいスキルを学ぶ上で大いに役立ちました。
現在の仕事の魅力と今後の展望
現在の仕事の魅力は、自身の情報収集・分析結果が、経営戦略や新規事業立案といった企業の重要な意思決定に直接貢献できる点にあると佐藤さんは語ります。図書館でのやりがいとはまた異なりますが、「情報の力で世の中や組織を動かす」というスケール感に大きな達成感を感じています。
今後は、さらに高度なデータ分析手法や、AI・機械学習を用いた情報収集・分析プロセスの自動化にも取り組んでいきたいと考えており、情報科学の知識をさらに深めることにも意欲を示しています。司書時代に培った情報の「意味」を理解する力と、新しい技術を組み合わせることで、より質の高いインテリジェンスを提供できると信じています。
これからの一歩を踏み出す方へ
佐藤さんは、キャリアに悩む元司書や、自身の専門性を異業種で活かしたいと考えている人々に向けて、以下のようなメッセージを送ります。
司書として培った情報に関する専門性、すなわち「情報を集め、整理し、分析し、必要とする人に的確に届ける力」は、形を変えてどのような業界・職種でも必ず活かせます。特に情報技術やデータ活用が不可欠な現代ビジネスにおいては、その価値はますます高まっています。
自身のスキルを「図書館の中だけのもの」と限定せず、それがビジネスのどのような課題解決に貢献できるのかを具体的に考えてみることが重要です。情報科学などの専門知識を活かせる分野は、競合情報分析だけでなく、データマネジメント、コンテンツ戦略、UXリサーチなど多岐にわたります。
一歩踏み出すことに不安を感じるかもしれませんが、司書として身につけた学び続ける姿勢と、利用者や同僚とのコミュニケーション能力は、新しい環境への適応を助けてくれるはずです。あなたの情報専門家としてのスキルは、必ずビジネスの現場でも求められています。
まとめ
元司書がビジネスの競合情報分析や市場トレンド調査の分野で活躍する事例は、司書経験が持つ情報に関する専門性、特に情報収集、整理、分析、利用者ニーズ理解といったスキルが、異業種においても非常に高い価値を持つことを示しています。情報科学などの関連分野を学んだ方にとって、司書経験は情報技術とビジネスを結びつける強力な架け橋となり得るでしょう。自身のスキルセットを広い視野で見直し、可能性を信じてキャリアの選択肢を広げていくことが、新たな道を切り拓く第一歩となります。